平成22年度日本コンクリート工学協会北海道支部優秀学生賞の表彰

平成23年5月10日に行われた北海道支部総会の会場で、昨年度の優秀学生賞について報告がされました。 優秀学生賞授賞審査委員会委員長の田畑雅幸氏から選考経過・審査方法について説明があり、表彰理由が紹介されました。 受賞者には表彰状と賞品,および,副賞としてJCI会員資格1年分が授与されております。

平成22年度JCI北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会
委員長 田畑 雅幸

選考経過

平成22年度JCI北海道支部優秀学生賞として修士論文3編の応募があった。
平成23年2月10日に応募を締切り、2月12日に審査方法の確認を行い、2月25日に審査委員5名の審査結果を集計し、2月28日に平成22年度JCI北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会を開催(E-mailを利用)して、以下の受賞者を決定した。

選考方法

選考方法は,例年と同様の方法とした。

  1. JCI「コンクリート工学年次論文集」論文審査要領の採否の判定基準に準じる。即ち、@「新規・独創性」、A「発展性」、B「有用性・実用性」、C「完成度(卒論は理解度)」、D「成果・現象解明」の5項目について、提出された論文を評価する。評価は、各項目を3段階で評価し(「評価せず:0点」,「良い: 1点」,「大変良い: 2点」)、合計点を評価点とする。
  2. 委員5名全員による評価点の合計が30点以上(審査員の合計点数は50点満点)の論文を対象とする。ただし、対象論文が多数の場合には上位3位までとする。

優秀学生賞受賞者

委員会にて慎重に審査の結果、優秀学生賞として次の3人に決定した。

1. RC造ト形柱梁接合部のせん断破壊と定着破壊の相互関係に関する実験的研究
岡田 大介  おかだ だいすけ (北大大学院修士課程修了) 推薦者 後藤康明
2. 化学的に劣化したセメント系複合材料の力学特性
三浦 泰人  みうら たいと (北大大学院修士課程修了) 推薦者 佐藤靖彦
3. モルタル・コンクリートの乾燥収縮に及ぼす骨材種別および高炉スラグ微粉末の影響
渡邉 詩穂子  わたなべ しほこ (室蘭工業大学大学院修士課程修了) 推薦者 濱 幸雄

決定理由

1.RC造ト形柱梁接合部のせん断破壊と定着破壊の相互関係に関する実験的研究

(理由)

本研究は,鉄筋コンクリート造構造物の柱梁接合部の破壊性状について考察を行ったものである。特に,建物端部にある柱に対して梁を定着する際に,主筋を折り曲げて定着するのが一般的であるが,その際に破壊形式として接合部のせん断破壊のほか定着破壊の可能性が生じる。現行の耐力評価式は,お互いの破壊が生じない試験体を用いて提案されたものであるが,両破壊はひび割れ発生の応力レベルから相互の破壊性状に影響を与えていると考えられるため,相互の影響を考慮した耐力評価が必要と考えられる。
本研究では,実大の約1/2 の模型試験体を用いて両破壊形式が観察できる加力実験を行い,実験結果を考察して相互作用の検討を行うことだけに留まらず,既往の実験結果を用いて,主筋や補強筋のディテールを詳しく検討して,両破壊耐力の再評価を行っているところに特徴が見られる。結果として,従来柱梁接合部のせん断耐力に無視していた接合部補強筋の効果が場合によっては見られることを指摘した点や,地震動のように繰返し加力の影響によりせん断ひび割れから定着破壊である掻出し破壊に転化する現象を示した点が評価される。
これらの成果は実施設計を行うにあたり大変有意義な知見であるとともに,今後の学術的発展が期待できる。以上の理由により,平成22年度JCI北海道支部優秀学生賞として決定した。

2.化学的に劣化したセメント系複合材料の力学特性

(理由)

本研究は,塩や酸が作用することにより,セメント系複合材料(セメントペースとモルタル)の力学特性がどのように変化するのかを,メソスケールの供試体を用いて実験的に検討したものである。具体的には,腐食性溶液として,塩化ナトリウム,塩化カルシウム,硫酸を取り上げ,セメントペーストとモルタルの最大6 ヶ月間の浸漬実験を行った後,3点曲げ試験および化学分析を行い,曲げ試験から得られた荷重−変位関係からメソスケール解析に適用可能なモルタルの引張軟化曲線を同定するとともに,化学分析により定量化した供試体中の水和物量と力学特性値(強度,弾性係数,破壊エネルギー,最大ひび割れ幅)との関連性を明らかにした。さらに,化学劣化に伴う水和物量の変化を考慮できる力学特性値の予測式と引張軟化モデルを構築した。
本研究は,力学的評価と物理・化学的評価を融合させた新しい評価軸で,コンクリート構造物の耐久性を論じようとする試みであり極めて独創的な研究といえる。得られた成果も工学的に大変有用な知見が得られており,今後の学術的発展が期待できる。以上の理由により,平成22年度JCI北海道支部優秀学生賞として決定した。

3.モルタル・コンクリートの乾燥収縮に及ぼす骨材種別および高炉スラグ微粉末の影響

(理由)

本研究は,モルタルおよびコンクリートの乾燥収縮について,二つの側面から検討を行ったものである。一つは,各種ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末を混和したモルタルについて,セメント種類,スラグ粉末度の影響をモルタルの空隙構造の面から検討を行い,もう一つは,14 種類の細骨材を用いたモルタルおよび5 種類の細骨材と3 種類の粗骨材を組み合わせたコンクリートについて乾燥収縮に及ぼす骨材種別の影響の観点から検討を行っている。その結果,高炉スラグ微粉末が乾燥収縮に及ぼす影響がベースとするポルトランドセメント種類により異なり,普通セメントよりも中庸熱,低熱セメントに粉末度の大きな高炉スラグ微粉末を混入した場合の収縮量の増大が顕著であること,毛管空隙量が増加するほど,ゲル空隙量が減少するほど乾燥収縮量が小さくなることを指摘するとともに,BET 比表面積,直径6-30nmの細孔量などと乾燥収縮率の関係を表す実験式を導いている。また,骨材の影響については,モルタルの場合には細骨材種類により収縮量が大きく異なることが明らかとなったが,コンクリートとした場合には細骨材種類の影響よりも粗骨材種類の影響が卓越する結果となり,一般に指摘されているように石灰石砕石を用いた場合に収縮量が小さくなることを確認している。
本研究は,近年注目されている高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートについて,基礎的かつ有益な知見が得られており,今後の学術的発展が期待できる。以上の理由により,平成22年度JCI北海道支部優秀学生賞として決定した。


表彰

表彰状等は受賞者の推薦者へ送付し,学位記授与式に合わせて受賞者へ授与していただいた。表彰では,賞状の他,賞品として5,000円の図書カード,副賞としてJCI正会員1年分の資格を与えた。なお,受賞者は,平成23年4月4日開催の役員会に報告し了承され,本日ここにご報告するものです。

JCI北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会
委員長 北海道職業能力開発大学校 田畑 雅幸
委 員 北海道大学 上田 多門
委 員 函館工業高等専門学校 澤村 秀治
委 員 北海道工業大学 武田 寛
委 員 北海道大学 長谷川拓哉