平成20年度日本コンクリート工学協会北海道支部優秀学生賞の表彰
平成21年5月12日に行われた北海道支部総会の会場で、昨年度の優秀学生賞について報告がされました。 初めに、今年度の表彰から受賞者の卒業証書授与式および修了証書授与式時に表彰することになった旨が大沼支部長より報告され,その後,優秀学生賞授賞審査委員会委員長の杉山雅氏から選考経過・審査方法について説明があり、表彰理由が紹介されました。 受賞者には表彰状と賞品,および,副賞としてJCI会員資格1年分が授与されております。
平成20年度JCI北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会
委員長 杉山雅
平成20年度JCI北海道支部優秀学生賞として修士論文2編,卒業論文1編の応募があった。
平成21年2月12日に応募を締切り,平成21年2月13日に審査方法の確認を行い,平成21年3月2日に審査結果を集計し,平成21年3月3日に平成20年度JCI北海道支部優秀学生賞受賞審査委員会を開催し(E-mailを利用),以下の受賞候補者(案)を推薦することとした。
選考方法は,例年と同様の方法である。
委員会として慎重審査の結果,優秀学生賞候補として次の3編を推薦する。
1. | EPMAによるフライアッシュを利用したコンクリートの塩分浸透評価 | |||
鈴木 健太 | すずき けんた | (北大大学院修了) | 推薦者 杉山隆文 | |
2. | 登別温泉水によるモルタルの劣化機構の化学・力学的特性評価 | |||
三浦泰人 | みうら たいと | (北大卒業) | 推薦者 佐藤靖彦 | |
3. | モルタルの細孔構造と耐凍害性の関係に及ぼす養生条件・セメント種別の影響 | |||
上田尚人 | うえだ なおと | (室工大大学院修了) | 推薦者 濱 幸雄 |
1.EPMAによるフライアッシュを利用したコンクリートの塩分浸透評価
(理由)
本研究は,セメントの一部代替としてJIS U種フライアッシュを用いたコンクリート,および粗骨材として砕石よりもポーラスであるHFA(高強度フライアッシュ人工骨材)を使用したコンクリートの塩分浸透性について検討している。塩分浸透性に関して,「JSCE G574-2005 EPMA法によるコンクリート中の元素の面分析方法(案)」が規定されているが,塩化物イオンの浸透分布の評価方法は規定されていない。そこで,本研究では,EPMAによる塩素の面分析を実施して,塩化物イオンの見掛けの拡散係数を計算する手法を新たに提案している。さらに,EPMAから推定した全塩化物イオン濃度分布と実測値はほぼ一致することから,本研究で提案したEPMAによる塩分浸透評価手法が妥当であることを示した。
当該論文は,フライアッシュを用いた各種コンクリートの6〜8年間にわたる長期間の塩分浸透性を,従来法とは異なるEPMAで評価している点が優れており,今後の更なる発展が期待される。
以上より,平成20年度JCI北海道支部優秀学生賞候補として推薦する。
2.登別温泉水によるモルタルの劣化機構の化学・力学的特性評価
(理由)
これまで登別温泉地区に建設されるコンクリート構造物の耐久設計は,大分県別府温泉を対象として作成されたマニュアルに基づき行われてきた。しかし,別府温泉とは泉源の性質が大きく異なる登別温泉に対し,そのマニュアルを適用することには無理があった。本研究は,化学的分析(水和物量や塩分量の測定)と力学的分析(メゾレベルでの曲げ載荷試験)の双方を通じて,登別温泉環境下でのモルタルの複合劣化機構を明らかにしようとしている。その結果,塩化物イオンが多量に存在する環境下では水酸化カルシウムの減少が卓越し,曲げ強度の低下とポストピークの延性化が引き起こされること,また,硫酸イオンが多量に存在する環境下ではC-S-Hの減少が卓越し,曲げ剛性と曲げ強度の低下,ならびにポストピークの延性化が引き起こされることを明らかにした。
当該論文は,メゾレベルでのモルタルの力学的な性質(弾性係数,強度,軟化性状)を水和物量によりモデル化できることを示唆するものであり,今後の学術的展開が期待される。
以上より,平成20年度JCI北海道支部優秀学生賞候補として推薦する。
3.モルタルの細孔構造と耐凍害性の関係に及ぼす養生条件・セメント種別の影響
(理由)
近年,乾燥および乾湿繰返しによってC-S-Hのナノ構造変化に伴う細孔の粗大化が耐凍害性低下の原因であるとする報告があり,細孔構造の変化に関する詳細な検討が必要となっている。本研究は,セメント種別と養生条件がモルタルの細孔構造と耐凍害性に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,セメント種別と試験材齢および温度,湿度,養生期間を変化させた乾燥・乾湿繰り返し養生を行ったモルタルの細孔構造と耐凍害性に関する実験検討を行っている。
当該論文は,高温乾燥による細孔量の増加,インクボトル細孔の増加および入り口細孔径の粗大化が,凍結水量の増加に影響を及ぼし,耐凍害性の低下の原因になっている可能性があることを指摘している。これらのことは,コンクリート等の耐久性を議論する上で非常に重要であり,今後の学術的展開が期待される。
以上より,平成20年度JCI北海道支部優秀学生賞候補として推薦する。
平成20年7月15日開催の役員会において,今年度は試行として賞状等の授与を大学等の学位記授与式に合わせることが了承された。表彰規定では授賞者は役員会で承認することとなっているが,この時期に役員会の開催は難しいことから,平成21年2月10日開催の役員会において授賞者の承認を支部長に一任し,平成21年4月10日開催の役員会で報告することが了承された。平成21年3月3日,支部長は審査委員会の報告を受けて、審査委員会が推薦した3名に平成20年度JCI北海道支部優秀学生賞を授与することを決定した。
表彰では,賞状の他,賞品として5,000円の図書カード,副賞としてJCI正会員1年分の資格を与えた。
JCI北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会 | |||
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委員長 | 北海学園大学 | 杉山 雅 | |
委 員 | 北海道工業大学 | 今野 克幸 | |
委 員 | 北海道大学 | 長谷川 拓哉 | |
委 員 | 北海道大学 | 北野 敦則 | |
委 員 | 寒地土木研究所 | 田口 史雄 |